製薬・ヘルスケア業界では、デジタル技術によってビジネスの在り方や業務プロセスが根幹から変わろうとしています。リアルワールドデータ(RWD)、リアルワールドエビデンス(RWE)といわれるように、いまやこれらの業界では、いままで手に入れることが難しかったデータが大量に入手可能になり、AIをはじめとするデジタル技術で加工・分析することで、創薬や医療サービスにおいて従来では有り得なかった非連続的な革新が起きています。
私たちUiPathは、デジタル技術の一環として自動化プラットフォームを提供しており、製薬会社様をはじめとした様々な企業様と、その業務プロセスを自動化してきました。自動化によって企業のデータはより早く、小さいコストで、透明性を保ちつつ柔軟かつ安全に流通します。
しかし一方で、薬や医療機器は人の生命に影響を与えうるものであり、取り扱いは厳重に行う必要があります。このため、これらの研究開発や生産などの業務プロセスには遵守すべきルールが存在します。日本ではCSV(コンピューター化システムバリデーション)、海外ではGxPに代表される規制やガイドラインがそれにあたります。UiPathを用いて、これらの重要な業務プロセスを自動化する際も、これらの規制やガイドラインに準拠する必要があります。
UiPathは、これらの『規制・ガイドライン対応が必要な、重要な業務プロセスの自動化』において、日本と海外で濃淡があるのではないか、と常々、感じておりました。
何事にも慎重でリスクを重視する日本的なアプローチと、効果を最大化するためには、時には積極的にリスクを取りに行く欧米型のアプローチの違いなのか
あるいはユーザー個人を中心とした自動化が主流の日本と、組織を横断したエンド・ツー・エンドの自動化に多く取り組んでいる欧米との違いなのか
このポイントを明らかにすることで、製薬会社様はもちろんのこと、日本企業のDX全体において価値のある示唆が得られるかもしれません。
このような背景を踏まえ、大きく規制・ガイドライン(CSV)対応を主テーマとしつつ、製薬・ヘルスケア業界の主たるユーザー様をお招きしました。東京都千代田区大手町を中心にリモート会議で日本各地とアメリカ合衆国イリノイ州シカゴを結び、第5回 製薬ユーザー会を開催して、30名以上の方にご参加いただきました。
最初の講演は、UiPath Industry Head, Life ScienceのJoe Milesより、海外の製薬・ヘルスケア企業の先進的な取り組みについてお話しさせていただきました。JoeはSAPやGoogleで長年にわたり製薬・ヘルスケア業界を担当してきました。真夜中のイリノイ州シカゴからリアルタイムで参加し、講演+質疑応答で1時間程度の情報提供を行いました。
Joe Miles, UiPath Industry Head, Life Science
講演では、業界における自動化のポテンシャルや具体的な自動化対象業務の話から、海外先進企業の個別具体的な活用事例まで幅広く触れました。
市民開発・プロ開発といった開発形態の違いによって、Non-GxP・GxPをどう扱うか
研究開発における具体的な自動化事例としてELN(Electronic Lab Notebook / 電子実験ノート)を中心とした業務自動化をデモ形式で説明
昨今、話題の生成系AIとUiPathを融合させるアプローチ
UiPath Document Understandingを用いて様々な文書の読み取りを自動的に行い、大きな効果を実現した事例の紹介
GxP領域でUiPath Automation Cloudを利用する際に役立つ機能:Delayed Release Ring
機能:Delayed Release Ring
海外先進企業ではNon-GxP・GxPを問わず、幅広い自動化が行われていることが大変、印象的な講演でした。自動化の効果についても、ひとつの業務で数十万時間を創出した事例が複数、紹介され、その効果の大きさには驚かされました。
Joe の講演に続いて、ビュルガーコンサルティング株式会社 山岸 幸満様よりRPAのCSV対応について講演いただきました。ビュルガーコンサルティング株式会社様は2004年に設立され、幅広いコンサルティングサービスを提供されており、中でも製薬会社様向けのビジネス・ITコンサルティングを多くの実績をお持ちです。
本講演では、実際に日本の製薬会社様に行ったRPAのCSV対応の結果をベースに、CSV対応の流れや考え方、注意点についてお話しいただきました。特に注意点については、以下の6項目を挙げ、課題になりやすい点と、事前に準備・検討しておいた方が良い点を合わせて丁寧にご説明いただきました。
ユーザー開発時のテスト
カテゴリ分類
アクセス権限管理
監査証跡
変更管理
バックアップ
ビュルガーコンサルティング 山岸様:ご講演の様子
特に印象に残ったのは『シンプルなCSV』、『通常のITシステムと同レベルのCSVで良いか(オーバースペックではないか)』といった点を、何度も強調されていたことです。これはRPAに限らず、ExcelマクロのCSV対応のときと同様の議論であったと説明されていました。ロボットの実行形態(Attended/Unattended)にも関わる話であり、一概に言いきることは難しいポイントですが、RPAのCSV対応のハードルを下げ、適用業務領域を広げる試みとして大変に重要であると感じました。
最後の取り組みとして、ユーザー企業の皆様からそれぞれの取り組みをご説明いただき、ご興味のあるテーマごとにディスカッションを行いました。今回は大手町でのオンサイトとリモートのハイブリッド開催となったため、なかなかディスカッションしにくい環境ではありましたが、オンサイトで来ていただいたユーザー様を中心に活発な議論が行われました。
ディスカッションの様子
最初のテーマは、Joeと山岸様の講演を踏まえてCSV(GxP)対応を選択しました。当初の予想通り、日本ではCSV対応が必要な業務をUiPathで自動化されているユーザー様は、まだまだ少数派でした。多くのお客様が、そもそも規制対象の業務をUiPathで自動化するべきなのか、本当に大きな効果が得られるのか、調査・検討の段階にありました。
ただ一方で、ユーザーから『CSV(GxP)対応が必要な業務を自動化したい』という要望が来ることは予想される、あるいは既に来ている状況であり、検討を先延ばしし続けることも難しいという意見も出されました。
続いて、『UiPathを使った自動化を社内でどのように広げていくか』というテーマで議論が行われました。この議論は規制対応と同様に、RPA業界における伝統的な課題のひとつです。この議論における対立軸は、以下の両論で構成されます。
こういった自動化の仕組みについて知ることで、社内に熱が波及し自然と広がっていく
『作られたものは便利なので利用したい。しかし、自分で作るのはちょっと勘弁』という意見が大勢で、なかなか活動が盛り上がらない
今回のディスカッションで、どちらかの意見が正となったわけではなく、また2つの道に至る分岐点が何なのかが明確になったわけでもありませんが、両方の事象が有り得ること、そしてそれぞれにおいて重要なポイントの示唆は得られたように感じました。
最後に、『RPAの活動・効果の頭打ち』問題について議論しました。日本にRPAブームが到来して既に5年程度が経過し、従来のRPA活動ではおおよその需要を刈り取り切ったのではないか。という意見です。
これについても『そのようだ』、『そうでもない』と両論があり、意見交換が盛り上がりました。一方でUiPathからは、『RPAの活動が頭打ちになった後、取り組みの方向性を変えることで効果時間を倍増させた』海外事例をご紹介させていただきました。この事例では以下の3つのポイントがありました。
RPA単体ではなく、AIを併用するユースケースを開発する
新しい業務領域への適用を試みる
『RPAは信頼性が低い』といった風評を払しょくし、企業のITアーキテクチャの一角を担えることを証明する
上記の3つをやり切った上で、それでもなおRPAの効果が頭打ちになっているケースはほぼなく、まだまだ挑戦できる余地は残されているように感じました。
ユーザー様に海外・国内の先進事例をご紹介し、またユーザー様同士で情報交換を行うことができ、有意義なユーザー会になったと感じました。
日本のRPAは4~5年前に爆発的に流行した後、やや息切れしてしまい、伝統的な課題の解決が進んでいないのではないか、どうすればRPAを超えた自動化を実現できるのか…と悩んでいましたが、今回のユーザー様の意見効果を拝聴していると、慎重ながらも着実に歩みを進められており、安心すると同時に大いにモチベートされました。
懇親会の様子
次回(来年)のユーザー会で、より進んだ取り組みを議論できるのが楽しみです。UiPathユーザー会では、今後も企業の壁を超えて情報共有や意見交換を行える場づくりを強化していきます。自社のデジタルトランスフォーメーションや働き方改革のヒントを見つけていただけるUiPathユーザー会に、ぜひご参加ください。
本ユーザー会のセッションをアーカイブ配信中です。ぜひあわせてご覧ください。
Topics:
ヘルスケアTransformation Team Lead, UiPath
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