人口減少と少子高齢化、グローバル経済における競争の激化、労働生産性の向上など、日本社会が抱える様々な社会問題を解決するための糸口として、「Society 5.0」というビジョンがあります。Society 5.0は、IoT、ロボット、人工知能(AI)、ビッグデータ等の技術の活用によって、経済の発展を実現しながらも多様化する社会問題を解決する、人間が中心の社会とされます。
Society 5.0の実現に欠かせないのが教育現場のデジタル化です。教育現場では、様々な業務を抱えた教員の労働生産性向上や働き方改革を果たしながらも、これからのデジタル社会を担う人財の教育を実現していかなければなりません。教育現場のデジタル化は、これからの日本社会の発展を支えるためには不可欠になっていきます。
教育現場のデジタルトランスフォーメーションを考えるとき、主に2つの視点があります。
一つは、デジタルネイティブ人財の育成です。テクノロジーの飛躍的進化にともない、子どもたちを取り巻くデジタル環境は大きく変化しています。まずは将来彼らが活躍できる環境を作っていくために、プログラミング教育に限らず、広くデジタル時代の「考え方」を学ぶIT教育を充実させることが大切です。さらに、働き方が大きく変化する未来に向け、事務職・専門職といった進路にあわせて早期に文理の選択をする教育構造を改革し、文理横断の知識や技能を身につける教育体制にシフトしていく必要があります。
もう一つは、学校における「働き方改革」、つまり現場の教員がおこなう学校業務の効率化と生産性向上です。日本において教員の業務負担は深刻な社会問題となっており、小中高では授業に加え、登下校の見守り、部活動指導、そして給食費の徴収といった事務作業も教員たちが負担しています。そこで、専門職である教員が行う必要のない事務作業にかける業務時間を減らし、ひとりひとりの学生に向き合う本来の仕事に専念できる環境をつくる必要があります。
こうした背景を受け、去る2019年9月12日(木)、UiPathは教育現場におけるデジタルトランスフォーメーションをテーマにしたイベント「教育改革の展望 「『2040年に向けた高等教育のグランドデザイン答申』と『初等中等教育機関の働き方改革答申』 セミナー」を開催しました。セミナーの第1部では、文部科学省から高等教育局様・初等中等教育局様をお招きし、大学教育改革の展望や、学校における働き方改革について、ご紹介しました。
2018年11月、中央教育審議会によって「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン答申」が取りまとめられました。2040年は、2018年に生まれた子どもたちが大学を卒業するタイミングとなる年。この答申は、大学を「新しい社会経済システムをつくる人財や研究成果を生み出すための“知と人財の集積拠点”」と位置付けたうえで、高等教育が実現すべき方向性を示しています。答申の中でも代表的な以下の3つの考えについて、文部科学省 高等教育局 高等教育企画課の牛尾 則文課長にお話しいただきました。
高等教育の展望:学修者本位への教育の転換
高等教育の体制:多様性と柔軟性の確保
高等教育の質:学修者本位の教育の質の保証
「これからの時代は、一つの組織に属してがんばり続けるのではなく、個々の能力を多様に活かしながら働く時代。社会的な流動性が高くなるなかで、“自分は何ができる人間なのか”をはっきり示せることが重要になります」
牛尾氏はそう語ったうえで、これから大学では「何を教えたのか」ではなく、学生が「何を学び、身に付けることができたのか」が重視されていくと続けました(①)。そしてその個々の能力を引き出すには、大学における多様性と柔軟性が不可欠です(②)。これまでは一つの大学組織内における多様性を追求していましたが、今後は他大学や民間と連携しながら、強みを強化する動きも求められていくでしょう。③については、教育の質を向上させるための「教学マネジメント」の重要性を強調。具体的には、学長のリーダーシップの確立や教授会の役割の明確化、評価システム、情報開示などを挙げられました。
最後に牛尾氏は、上記のような方針を実現していくにはAIやRPAといったテクノロジーの活用も有効だと締めくくりました。
「大学は本来、多様な興味に基づき自由に研究を行う場所。その原理で言えば大学にマネジメントは不要で、日本ではずっとその考えが続いてきました。でも今、社会からさまざまな研究や人財養成が求められるようになり、ニーズが増える一方で大学予算は変わらないまま。つまり、どこかで業務を効率化しないといけません。教員が研究や教育に集中できるようにするためにどうマネジメントを進めていくかは、民間企業の力も借りて今後考えていかなくてはならない課題です」
これからの時代に求められる人財―初等中等教育機関の学習指導要領改訂
続いて登壇したのは、文部科学省 初等中等教育局財務課の合田哲雄課長。2020年から実施される新学習指導要領の円滑な実施と、学校における働き方改革の実現についてお話しいただきました。
今回の学習指導要領改訂においては、AIやSociety5.0時代に求められる資質・能力として「文章を正確に読み取る力」「教科固有の見方・考え方を働かせて、知識を習得し、考え、表現する力」「対話や協働を通じ、納得解を生み出そうとする態度」が挙げられています。そのために教育はどうあるべきか、AI研究の最前線に立つ有識者らとともに議論が続けられてきました。
「結論としては、“浮足立つ必要はない”。というのもこれらは、日本の学校教育が150年にわたって重視してきた力そのものだからです。ただし、まったく変わらなくていいわけでもない。AIやロボット技術の進化によって未来の働き方は確実に変わりますし、子どもたちを取り巻くテクノロジーや環境は大人が制御できない規模とスピードで変化していますから」
合田氏が警鐘を鳴らすのは、時代が変化しているにも関わらず、変わっていない現在の教育構造そのものです。日本では、高校生の7割が普通科文系で学び、そのまま私大の文系へと進みます。つまり高校2年生の段階で理系科目は捨て、英語、国語、地歴・公民の3教科の多肢選択式問題に対応すべく知識の暗記・再生に追われることに。それが教育の理想コースになっていることに、合田氏は強い危機感を覚えます。
「私自身RPAを体験しましたが、テクノロジーの進化によって、単純業務は将来本当にいらなくなってしまう。今後求められるのは、AIが解なしと言ったときに最適解を見つける力。学校で因数分解を学ぶのは将来の仕事で因数分解を使うからではなく、物事を解決する考え方や方法を知るためです。そして小中高が変わるなら、大学も変わっていかなくてはなりません」
教育構造の改革と合わせて、学校における働き方改革も急務の課題です。現在、全国の小中高をあわせた教員数は100万人で、こうした規模を持つ職業は他に類を見ません。そしてまもなく日本は、ベテラン教員の大量退職とそれに伴う新卒大量採用時代を迎えます。これまで蓄積されてきた教員たちの力を次世代に共有し、活かしていくには、RPA以外に手段はないと合田氏は指摘します。
「大きな問題は、教師の時間外労働の多さです。時間は教育のなかで最も大事な資源の一つ。それをまずは先生方ご自身や地域に理解していただき、業務の効率化を進めるとともに、将来的には免許制度や規制の改訂も行っていく必要もあると考えています」
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