グループ年間総額売上高約9,100億円(22年3月期実績)を誇り、国内だけで百貨店20店舗、中小型店・その他約130店舗を展開する、三越伊勢丹グループ。2017年5月からUiPathを導入し、人事・経理の業務を中心にRPA導入を推進していました。そんな中、コロナ禍となった2020年以降、定期宅配事業である「ISETAN DOOR」の会員者数が増加。数万人単位の会員に対しそれぞれの属性に応じてコミュニケーションを行うカスタマーサポート業務等にRPAを活用し、売上拡大を実現しています。工数削減だけでなく事業成長につなげるためのRPA活用のポイント、運用のコツなどについてご紹介します。
「私たち三越伊勢丹グループは百貨店業だけでなく、ファイナンス・不動産・人材派遣・物流・デジタル事業など様々な事業を展開しています。従来は、それぞれにおける細かい事務業務は、部門ごと・現場ごとに紙の伝票や独自のExcelマクロで行なっていました。しかし現場の人の手で作られたExcelマクロは、系統的に作られていない“デジタルのかけら”。保守・管理の難しさを問題視し、解決策として2017年にRPAの導入検討を始めたのです」と手島さん。
株式会社 三越伊勢丹ホールディングス 情報システム統括部 手島 真理子氏
まずは、現場に最も近い商品管理部門、持株会社の財務経理部門、そしてシステム関連会社の株式会社三越伊勢丹システム・ソリューションズ(IMS)の人事労務部門でUiPathを使った実証実験を開始。今後の横展開を見越して特性の異なる3つの部門を選定しました。基幹システムからデータ出力してExcelシートに入力したり、手計算でデータ加工して “時間”と“手間”をかけたりして行っていた業務を、RPAにより自動化したのです。その結果、社内で「予想以上の効果」という声が上がり、2018年に本格導入となりました。
本格導入後は対象部門も拡大し、ギフト営業部門、商品戦略部門、そして定期宅配営業部門も加わり、今まで61本のロボットを導入しています。「2021年には新たに10本のロボットを開発し追加で導入。10本のロボットによる1年の削減効果は17.4人月。ロボット数の増加に伴い、年間削減効果は大きくなっていますね。実はバックエンドの業務効率化によって一人ひとりの負荷が減っただけでなく、事業成長を後押しする力にもなっているのです」
今回は定期宅配営業部門での活用例をメインに、現場でのRPA活用のコツや成果、システム部門での開発のポイントについてお話を伺いました。
――村本 滉治氏
「百貨店で厳選した食材を全国の会員様へ定期的にお届けする新規事業『ISETAN DOOR』は、コロナ禍で会員数が大きく増加しました。サブスクリプション型の事業でもっとも大切なのは、一人ひとりの会員様の“継続利用”。そのためには、入会後の経過週や購買パフォーマンスに応じて適切なタッチポイントを多く持つことが重要です。顧客データについては緻密に分析された情報を取得できるのですが、セグメント別にこんなメッセージを届けたいという想いがあっても実際に手を動かす時間が足りず、諦めざるを得ない状況でした。しかし会員数が増え続ける中、従来のセグメンテーションのままでのコミュニケーション戦略で良いのか?という課題が浮き彫りになり、RPA活用を検討し始めたのです。
現在は購買頻度や購買額などを人間が要件定義し、ロボットが要件に合致する顧客を自動で抽出、SMSなどでセグメントにフィットしたメッセージを一斉配信する仕組みを構築しています。ポイントは『人間の作業を、ロボットが自動で代行する』という考え方。人間でも時間と手間をかければできる作業ですが、手作業が多い分ミスの確率も高まるリスクを伴います。でもロボットに任せればミスの心配もなく、ロボの作業中に人間は別の仕事ができる。ロボがどのような作業をしているのか、どう人間の負荷が軽減されているかがイメージしやすいため、現場でもRPAがポジティブに受け止められ、他業務の自動化も進んでいます。例えば売場チームでは入会後間もない方への注文忘れ防止コミュニケーション、新規会員獲得チームではセグメント別の入会案内メール送信、カスタマーサポートチームでは荷物の定時到着チェックなどにロボが威力を発揮しています」
株式会社 三越伊勢丹 第1MDグループ 定期宅配営業部 村本 滉治氏
「気合と根性、人海戦術で行っていた作業や『こんなことをしてみたい』と思いながら諦めていた作業を、RPAの活用で自動化できるようになりました。私たちの業務負荷が軽減できただけでなく、会員様一人ひとりに合った情報を的確に届けられるため、CRMの点でも成果がありました。入会直後の方には注文時のポイントや注意点をアナウンスしたり、購買頻度によってオススメ情報を配信したりといったきめ細かなコミュニケーションが可能になったのです。定期宅配サービスで重要なのは、継続利用いただき、LTV(Life Time Value)を向上させることですから、これはとても大きな成果と言えます。
ロボットによる自動化で、事業の未来を見据えた議論をする時間ができた点も大きな成果です。リスト抽出等の作業に費やしていた時間を、マーケティングや売場の販促施策を考える時間に転換。新しいアイデアを生み出す時間が増え、そのアイデアを作業時間やコストに阻まれず、ロボットによってスムーズに実行に移せることは、事業成長の大きな後押しになっていると思います」
「実は当初、RPAではなくMA(マーケティングオートメーション)ツールの導入も並行して検討していました。しかしMAツールには多様な便利機能がある反面、そのツールに合わせて現場の運用ルールを変えなければいけないケースも……。そうなるとメンバーの再教育も必要となるため、工数削減効果は低いと判断。ですから私たちは、まず『人間が従来行っていた作業をロボで自動化する』運用方針を選びました。小さな規模感でロボットを稼働させ、PDCAを素早く回すのです。トライ&エラーを繰り返すなかで、作業の要件自体を再定義していく。結果的に業務によりフィットした仕組みを構築できたのではないでしょうか」
――小俣 晴香氏
「当社は、UiPathが日本で事業をスタートして間もない2017年からタッグを組み、実証実験をスタート。長年愛用しているのには、主に2つの理由があります。1つ目はシステム横断が可能である点。例えば物流や調達など部門ごとに違う形式で管理されているデータの場合、従来は各部門でデータを抽出・加工してから連携させる必要がありました。しかしUiPathの場合、ロボットがシステムを横断して作業を自動化。RPAには無料の自動化ソフトもありますが、UiPathならシステムの壁を超えて自動化できるため、工数削減効果は非常に大きいと思います。
2つ目はローコードで開発がしやすい点。アクティビティ数も多いため複雑な業務にも対応が可能で、運用ルールの変更もほとんどなくそのまま自動化できるのもメリット。またブラウザ操作の信頼性も高く、Webデザインに凝ったサイトの操作でもエラー発生率はかなり低い。豊富なセレクターをカスタマイズして他部品との組み合わせも可能で、パソコン上で行う作業のほとんどはUiPathでRPA化できるのではないかと感じています」
株式会社 三越伊勢丹システム・ソリューションズ ICTアプリケーションサービス部プラットフォーム第2担当 スペシャリスト 小俣 晴香氏
「人が行う作業を自動化するRPAの開発は、ひとつひとつは大掛かりではない分小回りが利きます。とくにUiPathは知識や経験が少なくても扱いやすいツールのため、当社では入社1〜2年目の若手エンジニアでも開発を一気通貫で行っています。大規模システムの開発だと若手はまずテスト部分から携わることが多いのですが、RPAだと現場へのヒアリング、設計、リリース、改善といった一連の流れにメインで携わることができます。さらに、若手でも開発経験を活かして、三越伊勢丹グループ内にとどまらず、グループ外の他社のお客様向けにもRPAの導入支援をしています。開発部門における人材育成の点でもUiPath導入の効果は非常に大きいと実感しています」
――手島 真理子氏
「ロボットは、導入するだけで現場の負荷がゼロになる“魔法のツール”ではありません。その理解がないまま現場のRPA導入を進めてしまうと、『安心して任せられずロボットの運用が浸透しない』『ロボット任せになりすぎて作業内容がわからずエラー対応できない』といった事態も起こりかねません。ですから当社では段階を踏んでロボットを導入するようにしています。まずは人間が手作業で行い、その作業にロボットを並走させ人間の負荷を減らす、そして最終的にロボットで自動化しています。そうすることで、ロボットがどんな作業を行いユーザの負荷を減らしているかが明確に。万一エラーが発生した場合も素早い解決が可能になっています。今では現場でクチコミが広がっていて『うちの部門でも導入できないか』と問い合わせも増え、ボトムアップでRPA化が進んでいる状態です。
工数削減効果を高めるために、自動化の対象業務を選定する際には一定の基準を設けています。現在当社では、150時間/年の削減効果が期待できる作業について優先的にRPA導入を進めています。ユーザからは『RPA導入をきっかけに作業の“棚卸し”ができるようになり、そもそもこの作業は必要なのか?という議論もできるようになった』という声も上がっています。
「現在は、経理・人事・商品管理などのスタッフ部門を中心に伊勢丹新宿本店、三越銀座店に導入済み。今後、全国の店舗やグループ会社への展開も検討を進めています。RPA導入は工数削減とそれによる働き方改革に光が当たりがちですが、当社では定期宅配事業での事例のように、“事業成長”という付加価値も生まれている。今後は必ずしも150時間/年の基準に囚われず、より手軽に導入していければと考えています。働く人材が減少する中、RPA活用がビジネスをより成長させる鍵になるはず。RPAを使いこなせる人材の育成にも力を入れていきたいと考えています」
RPA導入によって、顧客との質の高いコミュニケーションや未来思考のための時間と機動力を獲得した三越伊勢丹グループ。事業を“守る”だけではなく“成長させる”原動力として、自動化を通しより多くの企業をサポートしていきたいとUiPathは考えています。
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小売Japan, UiPath
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